🕊温聲提示🕊

温又柔が、こんなことします、や、こんなこと書きました、とお知らせするためのブログ。

📚台湾庶民の哀歓 ユーモア交え

西田勝編訳『黄春明選集 溺死した老猫』(法政大学出版局)の書評を書きました。

f:id:wenyuju:20210717182835j:image

https://book.asahi.com/article/14396735

紙幅が足らず内容に言及できませんでしたが、本書に収録されてるインタビューがたいへん充実してます。

とりわけ、14歳の黄春明が書いた作文に涙した国語の先生が「もっとじょうずになりたいなら読みなさい」と沈従文とチェホフの本を黄春明にプレゼントしたこと。大陸からやってきたその先生のくちぐせが「皆さんがよく勉強すれば中国に希望があります」であったこと。そして1949年にまだたった26歳だったその先生が共産党のスパイとして公安に連行されて、それから約半世紀ののち、台湾の国家文芸奨を貰った黄春明がスピーチする段になり、「突然、準備したお話の内容を忘れてしまった。ただ頭をあげて『王先生、私、文芸賞をもらいましたよ』とだけ言いました」と言ったこと…

台湾ではよく知られたエピソードかもしれませんが、今回、日本語読者向けの選集が編まれたことで私は初めて知って、打ち震えました。

f:id:wenyuju:20210717185004j:image

「今の大量消費の社会、商品の社会、金の社会では、人間というものがだんだん冷たくなってきている。とても悲しい(…) 今の社会では大人は変わる見込みない。この社会を変えていこうとするなら人間を変えていかなければならない。子どものときからたくさんのいいお話を聞かせ、たくさんのいい芝居を見せる。そうしたら、その中の何人かは、一人でも私についてくるのではないか、そんな考えでやってます」と語る黄春明の"孫"の世代にあたる自分が、まさに今、黄春明の書き継いできた文学に勇気づけられてることを思うと、良質な文学は時の中でこそ育まれるものだとあらためて確信します。

f:id:wenyuju:20210717182847j:image

平成から令和へと元号が変わった年、「有鄰」に寄せた「戦士、乾杯!」を軸に書いたエッセイを添えて。

https://www.yurindo.co.jp/yurin/16600