🕊温聲提示🕊

温又柔が、こんなことします、や、こんなこと書きました、とお知らせするためのブログ。

📚見えぬ障壁の向こうにある抑圧

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荒木和華子・福本圭介=編著『帝国のヴェール 人種・ジェンダー・ポストコロニアリズムから解く世界』(明石書店)の書評を書きました。

book.asahi.com

折しも一面の「折々のことば」では鷲田清一さんが梶山季之『旅譜』と「創氏改名」のことに触れられていました。

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 「今、困難のなかにありながらも、生まれつつある新しい精神と想像力」に捧げられた『帝国のヴェール』を受けとめた一読者として、また、今、この国で日本語を書くアジアの小説家として、2022年早々、この本の書評を書かせてもらえたことの自分にとっての意義を今抱きしめている。

 昨日、この書評が掲載されてから知ったのだが、『帝国のヴェール』編者のお一人である荒木和華子さんは、木村友祐さんと私・温の往復書簡『私とあなたのあいだ いま、この国で生きるということ』をご自身が受けもつ大学のゼミのテキストでご使用なさっているとのこと。あの往復書簡こそ、「私」と「あなた」のあいだにある「ヴェール」を見定め、それを捲って互いを向き合おうとした試みだったので、荒木さんが私たちに共鳴し、それを学生さんと分かち合おうと努めてくださっていると知って、控えめに言って感涙。その荒木さんの「恩師」にあたる貴堂嘉之さんからはこんなメッセージを頂戴した。(貴堂さんは『帝国のヴェール』の「序文」を飾り、本の方向性を見事に示した「人種資本主義序説ーーBLM運動が投げかけた世界史的問い」をご執筆なさった方だ)。

 

>「「帝国であった過去」の未来である現在の日本で未(いま)だに何度も繰り返される「東アジアの『終わらない植民地主義』」から「脱却するヴィジョン」を、この国の多数派である日本人と共に模索することへと私は強く駆り立てられる。」温さんのこの思いを共にする人はたくさんいます。

 

 2020年4月、朝日新聞の書評委員に着任以来、よく考えた。自分には少々勿体なさすぎる「大舞台」で書評を書くとき、取り上げる本の著者や訳者、編集者をはじめ関係者各位を「喜ばす」のを目的にしてはいけない。露骨に言えば、いわゆるオトモダチ書評は絶対にしまいと誓って、私はこの「座」についたのだった。書評家でもなく、学者でもなく、万年学生気質の小説家である私にできるのは、自分の想像力や知的好奇心を刺激する特定の本をどう読んだのか記すことで、その本に備わる現代的価値を自分以外の人々と分かち合ったり、その本を必要としながらもその本と未だ出会えていない人たちにこういう本がありますよ、という「架け橋」になること。400字、800字、1000字の文章によって、書物の「知的共同体」を活性化させることにささやかながらも貢献すること……

 自分にとって新たな指針となり得る本の書評に取り組むことは、それだけでも十分な学びとなるのに、今回は、版元である明石書店さんとは縁があったため、関係者各位がこの書評の「評者」である私に対して直接喜びを表明し、さらには、先々に繋がる頼もしい連帯をも予感させてくれるという、思いがけぬ「報酬」を貰った心地なのです。本を読み、書き、そのことによって出会うべき人たちと「出会う」運に、自分はつくづく恵まれている。

 一方、「(マイノリティである)温さんは、私が作った(マイノリティのための)この本をぜひ読むべきでしょう」といった調子の、おそらくは悪意など一切なく、むしろマイノリティの味方を自負してるであろう方々からの「献本」も続々届くので、それに対応するのが辛いときもある。彼らが言いたがる「あなたが読むべき本です」は、私にとっては少し「暴力」的な響きがあって、読まなかったら、あるいは、書評に取り上げなかったら、こちらが悪い、とか、責任を果たしていない、みたいな気持ちにさせられるのだ。でもある時期から、罪悪感は抱かないことにしました。きっとこうした人たちは、私以外の人ーー大学教授で、日本人で、男性で、60代とかーーには、「あなたは僕の作った本を読むべきだ」とは言わないんだろうな、と思ったらね。それに、私にとって素晴らしい本なら頼まれなくても、書きますしね。

 というわけで、3月まで、あと少し書評委員、がんばります!

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