🕊温聲提示🕊

温又柔が、こんなことします、や、こんなこと書きました、とお知らせするためのブログ。

「祝宴」が野間文芸新人賞にノミネートされました📖

第44回野間文芸新人賞の最終候補作にノミネートされました。選考会は11月4日に行われるとのこと。

「新潮」2022年5月号より

「新潮5月号」に発表した小説「祝宴」が第44回野間文芸新人賞の候補作としてノミネートされました。https://twitter.com/Monthly_Shincho/status/1574599496985890816?s=20&t=BeohSDF3Vtt3FbiqeGJQYw

デビュー以来、理想とする小説のイメージははっきりとあるのに、それを表現するための自分の筆力がなかなか追いつかず、一作また一作と、たっぷりの時間を費やして書く日々を重ねてきました。幸運なことにそんな私の傍には必ず、私の「志」を、その都度その都度の私にとって”最善”の小説として形にするために楽しそうに!併走してくださる編集者がいました……この「祝宴」もまた、そうやってどうにか書き上げたものなので、こうして2022年の候補作の一つとして、日本現代文学愛好者の方々に「注目」されることになっただけでも、何かが大いに報われた気持ちです。

野間文芸新人賞といえば、講談社が主催する「野間三賞」のうちの一つ。2021年度の野間文芸賞の受賞作は、リービ英雄の『天路』でした。日本語でのみ書き得る文体として最高の感触をもたらす『天路』の著者は、私の文学の恩師でもあります。私の新人賞のノミネートが1年早ければ、(そしてめでたく「受賞」が果たせていたなら)、リービ英雄と同じ晴れ舞台に立てたかもしれない……そんな妄想ともつかない贅沢な空想をしていたら、リービ英雄もかつて野間文芸新人賞の受賞者であることを思い出します。受賞作は『星条旗の聞こえない部屋』。そしてそれは、1992年。今からちょうど30年前のことだと気づきました。

李良枝、中上健次が急逝したその年、リービ英雄は彼にとって第1冊となる小説集『星条旗の聞こえない部屋』を上梓したのか、と思ったらにわかに眩暈がする心地に。のちに法政大学で教鞭をとるようになったリービさんと巡り会い、そして、そんな先生に熱烈に薦められたからこそ、私は李良枝や中上健次を夢中で読みました。30年。この巡り合わせにスッと背筋が伸びます。

このブログを書きながら今気づいたけれど、「祝宴」の主人公・楊明虎は1950年生まれ。リービ英雄と同じ歳です。私と先生は親子ぐらい年齢が離れているのだな。

1992年から30年後。この賞にノミネートされた特別な重みを心地よく感じながら、今の私と同じ年齢だった「星条旗の聞こえない部屋」の作家が、その後も弛まなく「国と国、言葉と言葉の〈間〉」を鋭く見据えながら小説の言葉としての日本語の地平を切り拓き、のちに「天路」を書き遂げたように、私も書く日々の続きを生きなければ、と改めて思っています。むろん、受賞しようとしまいと!また、『祝宴』の単行本は11月下旬刊行予定で鋭意準備中です。どうかお楽しみに!