現在発売中「すばる5月号」に、今年1月21日に行われたシンポジウム「〈在日〉文学再考」での私のキーノートスピーチのために準備したメモを加筆・修正した「講演録」が掲載されました。
この日の私のスピーチをオンラインでご視聴くださった「すばる」編集部のKさんが、「温さんの個人的なご体験と李良枝作品の重なり、そして語りに込められたたしかな手触りに心を掴まれた」とあたたかなお言葉をかけてくれたのにすっかり嬉しくなった私、実はこのスピーチのためにちょっとしたメモのつもりで準備したものが結構な分量になってしまって……と打ち明けたところ、是非ともそれを講演の採録として「すばる」に載せましょう、という運びとなりました。
あいかわらず私は、この社会の中で書き、この歴史の中で生きている自分を、少しも意識しないで過ごすことなどとてもできません。そして、そんな私にとって小説を書く愉しみとは、結局のところ、書くという行為をとおして、語り尽くしてもなお、語りえぬものの気配を感じることなのだともしみじみ思ってばかりです。
最後になりましたが、大阪大学グローバル日本学教育研究拠点・拠点形成プロジェクトの皆々様が採録をご快諾くださったことも、この場を借りて改めて感謝いたします。とりわけ、「好去好来歌」の頃から私が書くものを”愛読”してくださっている渡邊英理さん。渡邊さんがいらっしゃらなければ、実現しなかったシンポジウムでした。考えてみれば「好去好来歌」が「すばる」に載って、私は小説家としての最初の一歩を踏み出したのでした。だから遠からずまた、「すばる」にも登場できますように。次こそ、小説で!